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介護業界を支える新しい力:AI技術の活用が次の時代を切り拓く

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2023.03.28

在宅医療 / 介護

AI / アルゴリズム

わが国の介護業界は、高齢化に伴う介護需要の高まりに加え、身体的・精神的に負担の大きい厳しい労働環境や賃金の低さなども相俟って、深刻な人手不足に直面している。現在、このような問題を解決する手段として、AIの活用に期待が集まっている。認知症ケアをはじめとするいくつかの領域ではすでにAI導入の例が見られ、政府も介護業界におけるAI活用促進に向けた取り組みを進めるなど、今後さらなる普及が見込まれる。わが国の介護分野におけるAI活用のメリットや課題、具体的事例について見ていきたい。

介護分野にAIを導入するメリット

はじめに、介護分野へのAI導入によって期待される4つの主なメリットについて解説する。

人手不足の解消

AIの導入は業務効率を向上させることができるため、介護スタッフの負担軽減につながる。例えば、AIによって定型的作業を自動化すれば、少ないスタッフでもより多くの介護業務をこなすことが可能になる。さらに、スタッフの時間と心身に余裕が生まれることにより人間らしい介護を行うことができ、質も向上すると考えられる。

そのほかにも、介護に欠かせない「見守り」をAIが支援し、利用者の状況をリアルタイムで把握することによって、スタッフの負担軽減に寄与している例もある。

AIがスタッフの一員となって役割を果たすことで、深刻な人手不足の状況下でも、安心・安全な介護サービスの提供が維持できると期待されている。

質の高い介護の提供

質の高い介護の提供にはそれぞれの利用者に合った介護計画の作成が重要だが、これもAIが活躍する領域の一つである。AIは介護事業者やケアマネジャーの代わりにデータを分析し、利用者ごとに最適化された介護計画の作成を支援することができる。

AIのサポートの下で作られた介護計画は明確な根拠に基づいて説明されやすいことから、利用者や家族の納得性を高め、介護事業者やケアマネジャーと利用者およびその家族とのコミュニケーションを円滑にする役割も果たすことができる。

情報の共有と可視化

AIは介護業務における情報の可視化や、スタッフ間での効率のよい情報共有を支援する。例えば、AIが利用者の「見守り」を行う場合、モニタリング結果を介護スタッフ間にリアルタイムで共有することができる。介護スタッフは共有された情報を元に、適切な人員で必要な対応を迅速に行うことが可能になる。

AIの導入は介護現場におけるスタッフの連携強化に役立ち、より効率的で適切な介護サービスの提供に貢献すると考えられる。

コミュニケーションによる癒し効果

意外にも思われるが、AIが「癒し」の役割を担うこともある。その例が人間に近い姿をした介護ロボットである。介護ロボットは、利用者とのコミュニケーションを通じて、楽しい空間を作り出すことができる。ロボットが利用者と一緒に歌を歌ったり、ゲームをしたり、会話を楽しんだりすることで、利用者の孤独感や不安を軽減すると言われている。

この効果は介護スタッフの負担軽減にも寄与する。レクリエーションのプラン作成から実施までAIのサポートを得ることによって、介護スタッフはより個別化されたサービスの提供に注力することが可能になる。

介護分野におけるAI活用の課題

上述したように介護へのAI導入には多くのメリットがあるが、一方で課題も存在する。ここでは、AI導入に関して理解しておくべき主な課題について述べる。

情報セキュリティおよびプライバシーの保護

介護の現場では、利用者の健康状態や生活習慣など、多くの個人情報が扱われる。これらの個人情報の漏洩を防ぐことは、利用者やその家族にとって極めて重要である。そのため、AIによるデータ分析や処理には、高度な情報セキュリティ技術が必要とされる。また、介護サービスの利用においてはあらゆる個人的な事柄が介護スタッフと共有されるため、プライバシーの保護も大切である。

AIがデータを収集・管理することによって、個人情報の保護がおろそかになってはならない。AIが導入された環境下でもデータが正しく取り扱われるよう、法的枠組みの見直しも必要となるだろう。

高額な導入費用

AIの導入費用が高額であることも課題の一つである。資金に余裕のない施設や地域では導入が困難になる場合がある。介護施設は予算が限られていることが多いため、介護分野では費用の問題は特に大きい。政策的な支援策の充実などが求められる。

専門人材の不足

AIの活用には、AIを開発・導入するための技術的な専門知識を持った人材が必要である。しかし、現状ではこのような専門人材が不足しており、システムの適切な管理や運用が困難になる場合がある。

また、介護現場でAIを効果的に運用するには、IT技術に対して介護スタッフの一定程度の理解がなければならない。ITリテラシーの高くないスタッフもいることを前提に、現場でトレーニングの機会を設けることも必要となる。AIの活用方法だけでなく、AIの導入に伴う現場の仕事内容や業務プロセスの変化もふまえた教育内容を考慮すべきである。

人間との適切な役割分担

介護は人間の心身に寄り添うという業務の性格上、他の業界・分野に増してAIと人間との適切な役割分担への配慮が重視される。前述のように、高いコミュニケーション能力を持ち利用者に癒しを与えるAI搭載の介護ロボットも存在する。しかしながら、質の高い介護は人間同士のふれあいや相互理解によって生まれる信頼関係が不可欠であるため、介護ロボットが人間のスタッフを完全に代替することはできない。

例えば、AIに日常生活のサポートや利用者に楽しみを提供する役割を任せる一方で、人間のスタッフがより深い内面のケアに集中するなど、それぞれの得意分野を活かしながら適切に調和を取る方法を検討することが重要である。

介護分野でのAI活用事例

ここからは、介護分野におけるAI活用事例について、具体的なAIサービスを挙げながら紹介する。

認知症支援システム

介護分野の中でも特に、認知症患者の支援はAI導入が比較的進んでいる領域の一つである。介護施設では、認知症のある利用者の見守りと安全確保に人手がかかるため、AIに対するニーズが高い。

このようなニーズに対応するサービスの例に「LASHIC+」(ラシクプラス)がある。「LASHIC+」は、センシングとAIの活用によって施設入居者の行動把握をサポートするシステムである。センサーから取得した行動データをAIが解析・学習し、入居者の異常行動を正確に検知してスタッフに通知する。このようなシステムには、外から見えにくい施設管理の透明性を増すという利点もある。

ケアプラン作成支援システム

要介護者が公共の介護サービスを利用する際には、ケアプラン(介護計画書)が作成される。ケアプランには支援方針や自立目標、介護上の課題などが含まれ、ケアマネジャーがその作成に携わる。しかし、要介護者の状態を考慮して作成しなければならないため、手間や時間がかかる。さらに、出来上がったプランに対し利用者や家族の理解が得られないこともある。

このような課題に対する解決策となるのが、AIを用いたケアプラン作成支援システムである。実例に「ミルモぷらん」というサービスがある。「ミルモぷらん」は、要介護者のアセスメント情報を元にケアプランの内容を提案することができる。AIを用いることによって、あらゆる視点が考慮された、個別に最適なプラン作成への近道となる。このようなシステムは利用者や家族にとって納得性の高い介護の提供につながるとともに、ケアプランの作成と説明に苦慮するケアマネジャーの業務負荷軽減にも寄与するだろう。

介護ロボット

介護サービスの利用者は孤独を感じやすいことが問題視されている。しかし人手不足の介護の現場では、利用者が楽しい時間を過ごせるようにする工夫や配慮が十分に行き届かないことも懸念される。

そこで活躍が期待されるのが介護ロボットである。介護ロボットには介護スタッフの身体に負担のかかる業務をサポートするものもあるが、利用者とのコミュニケーションを主な役割とするものもある。後者の例に「PALRO」(パルロ)がある。「PALRO」は高度な会話能力で利用者を楽しませたり、体操やレクリエーションのサポートを行ったりすることができる。利用者に元気を与えるだけでなく、認知症予防やうつ予防にも効果を発揮することが期待されている。

わが国の介護分野におけるAI活用の将来展望

社会の高齢化に伴い、わが国では介護サービスの需要がさらに増加すると予想されている一方で、介護スタッフの不足は深刻である。この状況を打開するため、介護分野への効果的なAI導入がますます求められている。将来的にはAIが介護業界に欠かせない重要な存在となり、人手不足や業務の増加などの課題に対応するようになるだろう。

しかしながら、AI活用には課題も山積している。情報セキュリティやプライバシー保護のための環境整備高度専門知識をもつ人材の育成、AI技術の向上などの課題に継続的に取り組むことが必要である。課題を克服するにつれてさらに幅の広いサービスの提供が可能となり、介護の質を向上させることができると考えられる。

介護サービスの利用者やその家族がより充実した日常生活を送れるよう、AIの貢献とさらなるAI技術の発展に期待したい。

参考

(1)介護分野におけるAI等の活用状況 厚生労働省老健局
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001002876.pdf

(2)TOPPAN「凸版印刷とインフィック、センシング×AIで介護業務を支援」https://www.toppan.co.jp/news/2021/01/newsrelease210120_1.html

(3)ミルモぷらん
https://milmoplan.welmo.co.jp/

(4)コミュニケーションロボットPALRO
https://palro.jp/preventive-care/nursing-home.html

 

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