2023.06.02
ケアテックを牽引する株式会社aba CEO 宇井氏にインタビュー。起業にいたるまでの経緯やCTOとの出会い、さらに今後の展望について聞いた。
今回は実際の事業について、プロダクト開発における戦略や目指すべき事業についてお届けする。
目次
においに着目した理由は、介護は生活支援の場だから
ーー前編では、技術的に課題を解決していきたいというお話を伺いました。様々な技術がある中で、なぜ”におい”に着目されたのでしょうか?
においに着目したのは、現場で働く介護職の方がお話しされた2つのコンセプトを守るためです。
1つが体に機械をつけたくないということです。介護は生活支援の場であって治療の場ではありません。治療の場だと、正確性やスピードが求められるため肌に接触したり、有線のケーブルで繋げられていることがよくあります。
しかし、介護は生活支援の場のため、できるだけ本人の生活を乱さないようにして欲しいと言われました。そのため、シート型で体に機械をつけないタイプを死守しています。
もう1つは、尿と便のどちらも検知して欲しいということでした。それを技術で実現しようと考えた結果、においセンサーにたどり着きました。
センサーの小型化でコストダウンに成功
ーーHelppad1と2の違いを簡単に教えて下さい。
Helppad1と2の違いは、空気を吸うか吸わないかです。
Helppad1が発売された2010年代は、どうしても小指の先ぐらいのサイズがあり、熱が出てしまうため体の近くに置いておくのは難しいセンサーでした。においセンサーに空気を引き込むためには、空気を吸わざるを得ません。
しかしHelppad2では、センサーがMEMS技術によってチップサイズまで小型化されました。Helppad1に比べて圧倒的に熱が出ないのが特徴です。そのため、体の直下にセンサーを配置しても問題ないと判断ができました。
試行錯誤をする中で、空気を吸わずにシート型でセンサーを配置する形にたどり着きました。
その他、空気を吸うためのポンプやポンプ周辺部品が必要無くなったため、原価削減やチューブに尿や便が入ってしまった際のメンテナンスコストの削減につながっています。
施設にも一緒にヘルプパッドを広めてもらうというインパクトある拡販戦略
ーー今後拡販するためにどのような戦略をお考えでしょうか?
拡散方法については、施設さんにヘルプパッドを広めるアンバサダーになっていただくことを試しています。
事例として、これまで施設に親御さんを預けるご家族の方が、Helppadを購入して施設に導入したいという申し出が多々ありました。
親を施設に預けたとはいえ何かしてあげたい気持ちはあるため、こうして介護に役立つ商品を購入して施設で使ってもらうことで、親御さんへの想いを昇華されていることもあるのでしょう。
実際に施設で使ってみて良い商品だと思ってもらえたら、施設側で購入されるかもしれませんし、他の入居者さんが「私の親にも使ってもらいたいな」と思うかもしれません。ある施設さんからは、「私たちの介護現場がショールームのようになったら嬉しい」と言われています。施設さんがヘルプパッドユーザーで留まるだけでなく、施設さんを媒介にヘルプパッドがどんどん昼がることになるかもしれません。
私達はこのことを俗に「BtoCtoBモデル」と呼んでいます。
この手法は台数が多く普及することはないとしても施設側がHelppadを活用するきっかけになるので、業界へのインパクトも大きいと考えています。
日本は介護保険サービスがあるため、どうしても介護保険の中でどう回すかの議論になりがちですが、ビジネスモデルをもっと自由に考えて、さまざまな形でお金の流れを作っていきたいなと思っています。
まずは、株主の博報堂さんや朝日放送さんにも協力していただきながら模索していきます!
また、メディアに取り上げていただけることも増えてきているので、マーケティングの一貫として活用して販売していく方法も併せて考えています。
今後目指すべき2つの関係性
ーー今回の資金調達を機にこれから取り組みたいテーマについて、また達成するためにどのような人材が必要だとイメージをお持ちでしょうか?
私たちは、高齢者と介護者の関係性をもう一度つむぎ直していると思っています。
Helppadは、高齢者側の「排泄したからおむつを変えてほしいけれど言えない」、介護者側の「いいタイミングで交換に行きたいけれど、いつしているかわからないので開けて確認せざるをえない」という2者のすれ違いを解消するために生まれた製品です。
そのため、Helppadのことを「コミュニケーションツール」と伝えたり、ナースコールは押さないといけないのに対してHelppadはセンサーが自動で排泄を検知してくれることから、「ナースコールの再発明」と定義したりしています。
これまでは「要介護者」と「介護者」をつなぎ直すことをしてきましたが、次は「介護者」と「介護者」をつなぎ直すことをしたいと思っています。
ベテランの介護職のノウハウは素晴らしいけれど、人手不足の中、新人とベテランのシフトが合わないと引き継ぎのタイミングを失い、せっかくのベテランのノウハウが引き継がれないという問題があります。
私は、介護者同士のすれ違いをどうしたら解消できるのかについてずっと考えています。
課題解消のため、ベテランのヘルパーと新人ヘルパーをテレビ会議を用いて遠隔でつないだり、認知症ケアがうまくできている介護現場と、うまくいかず困っている介護現場をつなぐことで、ノウハウシェアができるのではと思っています。
また、介護現場での実践実況を他施設の教育や研修に役立てることができれば、いつも通りケアを実践すること自体が他施設への教育教材になり、いずれ一回で2度キャッシュインできるのではと想像しています。つまり、介護保険のサービスモデル以外にもキャッシュインができるのではと思うのです。そしてこの教育発信は日本だけでなく、グローバルに対して行うこともできます。
この発想は介護現場の良さは、生のライブ感にこそあるからだと思っているため、あのライブ感をそのまま伝えたいと思い生まれました。
テキストや写真、動画だとどうしてもあのライブ感が欠落してしまうので、現場ならではの空気感を今後もテクノロジーの進化に合わせて伝えていきたいと思っています。
様々な方法を考えているのですが、これらの活動を通じて、「日本の介護に日本の技術を世界に発信する」ことができたら面白くなっていくと考えています。
「人類みな介護者時代」だからこそ、誰もが介護したくなる社会を作る
ーー「2025年問題」など日本では要介護者と介護者のバランスが傾いてしまうのでは、と推察しているのですが、それらの問題に対してケアテック産業はどのような対応を求められていくとお考えでしょうか。
私はまず、一部の人が介護を担う構造を変えるべきだと思っています。
みんなで介護に参加をしないと難しいですし、そもそもこんなにおもしろい介護を知らずに人生を終えることがもったいないと考えています。
だから私たちのミッションは「テクノロジーで誰もが介護したくなる社会を作る」なのです。
また、要介護者の方々も、実は適切な支援があると誰かを支える側にもなれるんです。
「人類みな介護者時代」を前向きに作ることができたなら、例え倒れてしまっても、多くの人が支えてくれる人がたくさんいると思えたら、不安ではなくなる世の中になると思っています。
ーーケアテック市場で活躍されている他の企業様や今後参入してくる企業様に伝えたいことがあればご教示ください。
「介護」は「生活支援」とも呼ばれており、誰しも関係のない分野ではありません。生活はどの人も行う日々の営みです。生活の下支えをすることは、どのようなドメインでビジネスをする企業においても宿命だと思っています。
ぜひ、介護を楽しくする取り組みにご興味がある方がいらしたらご一緒しましょう。
今回はaba株式会社の宇井氏に新製品の拡販戦略や、今後の展望について伺った。
誰しもが関わる可能性のある、介護という分野に大きな変化を与えていって欲しい。
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