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【2024年施行】医師の働き方改革の概要と今後の展望

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2022.12.10

行政 / 自治体

急速に少子高齢化が進む中、わが国では、2025年にいわゆる「団塊の世代」が全て75歳以上となり、超高齢化社会を迎える。高齢化社会が進行している今、医療の需要増加と同時に、医師の過重労働が問題となっている。本記事では、この問題解決のために現在取り組まれている医師の働き方改革の概要について紹介する。医師の労働時間の見直しにより、心身の負担軽減とともに、医療事故のリスク低減が期待されている。

医師の働き方改革による法律改正の背景と趣旨

2019年から働き方改革による労働時間の改善が進められてきたが、医師は業務の特殊性から、時間外労働の上限規制に対して5年間の猶予期間が設けられていた(1)。厚生労働省の平成28年度の調査によると、時間外労働が年1860時間を超えると推察される医師が全体で約30%もいるとされる(2)。これは働き方改革で定められた時間外労働の上限「年720時間」を大幅に上回るものだ。

その負担の大きさは仕事にも悪影響を及ぼしており、勤務時間が長くなるほどヒヤリハットや医療事故を経験する割合が高くなるといわれている。このような背景から、過重労働による医療の質の低下を防ぐためにも、2024年4月から適用される医師の働き方改革を進めていくことが重要だ。働き方改革を推進することで、医師に十分な休息や自己研鑽に必要な時間を確保し、より質の高い医療提供につながるだろう。

地域医療確保暫定特例水準を超える働き方の医師がいる病院の割合

出典:医師の働き方改革について 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000818136.pdf

医師の労働時間はどう変わるのか?

2024年4月より開始される働き方改革の適用によって、医師の時間外労働の上限規制は「A、B、C」の3種類の水準に区分される。さらに月の上限を超える場合、水準に応じた措置も追加される予定だ。ここではそれぞれの水準の時間外労働の上限と措置について解説する。

水準ごとの時間外労働規制

水準ごとの対象と時間外労働上限を以下の表にまとめた(1)。

水準Aの対象である診療受時勤務医はすべての医師に当てはまるため、この水準が時間外労働上限のベースとなる。そして水準Bには、通常のBに加えて「連携B」という2種類がある。
Bは緊急性が高く、長時間労働が必要となる医療機関であるため、Aよりも時間外労働上限が引き伸ばされているのだ。水準Cにも「C-1」「C-2」の2種類に分かれている。
Cは集中的、長期的に経験を積む必要がある医師のために設けられている水準だ。

月の上限を超える場合の措置

月の時間外労働上限を超える場合、面接指導を実施し、さらに各水準に応じた就業上の措置が設けられている。水準ごとの措置の内容を以下の表にまとめた(1)。

どの水準も措置内容は共通しているが、Aは努力義務、B 、Cは義務となっている。

時間外労働規制の将来的な見通し

時間外労働規制は2024年以降もさらに変化をする予定となっている。2035年度末を目標とした具体的な見通しは以下の通りだ。

  • 水準Bを除外して、AとCの2種類で対応
  • Aの時間外労働規制に変更はないが、Cは将来に向けて縮減方向へ
  • 月の上限を超える措置の内容は据え置き

このように、さらなる労働時間の短縮を図り、最終的にAの年960時間、月100時間に近づける形で進める方向だ。

時間外労働規制の適用までに医療機関が取り組むべき課題

2024年4月の働き方改革が開始されるまでに、医療機関は以下の3つの課題に取り組む必要がある(1)。

  1. 時間外労働時間の実態の把握
  2. 医療機関に適用される上限の検討
  3. 短縮幅を見極めたうえで医師労働時間短縮計画を作成

ここでは、これらの課題について詳しく解説する。

1. 時間外労働時間の実態の把握

医療機関の取り組みは、医師ごとの時間外労働時間の実態把握から始まる。時間外労働時間が明確でないと、どの水準に適用しているのかが分からないからだ。多くの医療機関では、タイムカードやICカードなどを使用して勤怠管理をしているだろう。

しかし、医師の複雑な勤務形態から、出退勤記録が正しくなかったり、そもそも勤怠管理が困難であったりするケースも多い。そのため、出退勤時間を正確に記録できるような工夫を取り入れる必要があると考えられる。

2. 医療機関に適用される上限の検討

時間外労働時間の実態を把握した後は、その医療機関に適用される水準を検討する。たとえば、医療機関XではBの要件が満たせない場合、適用の上限はAとなる。一方で、医療機関YはBの要件を満たせるので、適用の上限はBだ。適用される水準と医師の時間外労働時間は、医療機関によってまったく異なる。そのため、医療機関ごとに予想される水準にあわせて、時間外労働時間の改善を行うこととなるだろう。

3. 医師労働時間短縮計画の作成

3つ目のステップでは、医療機関ごとの水準を満たすための「医師労働時間短縮計画」を作成し、実行する。たとえば、適用上限がAの医療機関Xでは、医師の時間外労働時間が年間400〜1000時間だったとする。この場合、Aの上限である年間960時間を下回るハードルは低いだろう。

次に、適用上限がBの医療機関Yでは、年間1,200〜1,400時間の医師が多く占めているとする。この時点で年間1860時間未満であるBの適用範囲だが、うまく労働時間の短縮に取り組めば、Aに到達することも十分に可能だ。このように、医療機関ごとの時間外労働時間の短縮幅を見極めつつ、2024年までに目標に向けた取り組みを行うことが重要だ。

時間外労働規制の適用までに都道府県が取り組むべき課題

医療機関だけでなく、都道府県でも働き方改革適用に向けて取り組むべき課題がみられている。ここでは「医療勤務環境改善支援センター」と「医師派遣、地域医療構想部門等」の2つに分けて解説する。

医療勤務環境改善支援センターの取り組み

医療勤務環境改善支援センターの取り組みは以下の通りだ(1)。

  • 医療機関への制度周知、働きかけの徹底
  • 管下の医療機関の状況把握
  • 医療機関の取り組みへの支援

おもに、働き方改革に向けた医療機関の取り組みの支援を中心に行っている。

医師派遣、地域医療構想部門などの取り組み

医師派遣、地域医療構想部門等では、以下の取り組みを行っている(1)。

  • 連携Bに指定される医療機関候補の把握
  • 連携Bに指定される医療機関の意向確認
  • 2024年4月以降の地域医療提供体制の見込み確認

これらの取り組みは、医療勤務環境改善支援センターと連携しながら進める必要がある。たとえば、医療勤務環境改善支援センターが医療機関へ連携Bの抜け落ちがないように説明を実施し、候補を把握しておく。その後、医師派遣、地域医療構想部門等で連携Bの候補である医療機関の意向確認を行い、必要に応じた支援を実施する。このように、相互連携しながら、医療機関だけでは対応できない範囲の支援を実施することが重要だ。

医師の働き方改革のまとめ

2024年の働き方改革では、医療機関の水準ごとに労働時間規制上限が設けられるようになる。そのため、それぞれの水準の適用を目標に、労働時間の短縮に取り組む必要がある。医療の需要が高い今だからこそ、医師の労働時間を見直し、医療体制の質を高める必要があるだろう。

参考:
(1)働き方改革関連法等について 厚生労働省https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/kankouju/kai/chihou_suishin/kuni/mhlw.pdf

(2)医師の働き方改革について 厚生労働省 令和3年https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000818136.pdf

 

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