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【決算書解説】セルソース 高収益を支える「細胞加工受託」の仕組み

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2023.01.04

事業戦略

再生医療

再生医療関連事業を手掛けるセルソースが急成長している。2015年の設立ながら、4年後の2019年には東証マザーズ(当時)への上場を果たした。売上高の年平均成長率は77%で粗利益率(売上高総利益率)も72%と高く、慢性的な赤字が続きやすいバイオベンチャーの中で頭一つ抜けた存在に。効率的に稼ぐビジネスモデルを深堀りした。

屋台骨は加工受託サービス

セルソースの売上高は主に4つの事業で構成されている。クリニックなどの医療機関から提供された患者細胞を加工する「加工受託サービス」、医療機関が再生医療を始める手続きを支援する「コンサルティングサービス」、美容クリニック中心に脂肪吸引機器などを提供する「医療機器販売」、スキンケア製品などを企画販売する「化粧品販売その他」の4つだ。

出典:セルソースの2022年10月期 決算説明資料 https://www.cellsource.co.jp/ir/documents/presentations/

このうち主力事業が加工受託サービスで、売上高全体の65%を占めている。国内に2500万人超の患者がいるとされる「変形性膝関節症」の治療に取り組む医療機関をサポートする事業だ。

この病気はクッションの役割を果たす膝の軟骨が加齢ですり減り、膝関節が炎症を起こすことで発症し、これまでは手術で人工関節を埋め込む方法しか根本的な治療法がなかった。
セルソースはこれを再生医療で解決しようとしている。まず、医療機関から患者の脂肪細胞と血液をセルソースが受け取り、そこから治療に必要な細胞などを抽出。脂肪細胞からは、軟骨に分化する「間葉系幹細胞」を分離して培養する。同時に血液から濃縮したタンパク質の「成長因子」を取り出し、これら2つの成分を患者の関節に投与すると、損傷が治癒されて痛みが和らぐという仕組みになっている。

再生医療というと「細胞医薬品」の製造販売のイメージが強いが、同社は「細胞加工」という業態で事業を伸ばしている。変形性膝関節症に間葉系幹細胞を用いる治療法自体は、以前から臨床現場で行われていたが、医療機関の中に加工設備をつくる必要があり、大規模な投資になるためほとんど普及していない状況だった。

2014年に「再生医療等安全性確保法」が成立し、セルソースなどの外部企業が加工を受託できるようになり市場が急拡大している。経済産業省によると、再生医療に関連する周辺産業の国内市場規模は2020年では950億円だが2050年には国内市場1.3兆円、世界市場15兆円となる見通しで成長余地は大きいと期待されている。

年平均成長率は驚異の77%

セルソースの売上高と粗利、営業利益の構造を見てみると、2022年10月期の売上高は42億円。ここから商品の製造にかかった材料費や加工外注費などの製造原価を引くと、粗利益(売上総利益)は30億円となる。さらに人件費や広告費などの販管費を引いた営業利益でも15億円が残っている。粗利益率は72%で営業利益率も34%と高く、効率良く利益を出している。

国内に60社程度の競合がいるものの、市場シェアはセルソースがほぼ一強の状態。セルソースは製造設備を自社で持っており、対応できる受注件数が比較的多いのが特徴だ。多くの顧客を抱えることができるため、契約医療機関数を順調に伸ばすことにつながっている。提携する医療機関数は約1400施設と2年で約2.5倍になったことに加え、血液由来加工受託数が年2万件を突破し、脂肪由来幹細胞加工受託も年1600件を超えている。

出典:セルソースの2022年10月期 決算説明資料 https://www.cellsource.co.jp/ir/documents/presentations/

セルソースはこの成長がそのまま売上高につながっているという構図だ。2016年10月期に1億3900万円だった売上高は30倍に増加。営業利益も800万円から約200倍に伸びている。売上高の年平均成長率(CAGR)は77%となり、上場企業の中でも非常に高い水準を維持。2022年10月期は売上高、営業利益、当期純利益、売上高営業利益率、加工受託件数で過去最高を記録した。

セントラルキッチン方式でコスト削減

同社の細胞加工受託の特徴はセントラルキッチン方式を採用したことにある。セントラルキッチン方式とは、一般的に外食チェーン店などが採用しているビジネス戦略で、中央の大規模施設で調理加工した商品を複数のレストランに配送する方法を指す。きめ細やかなアレンジは難しくなるが、スケールメリットを利かせやすく、原価の低減や品質の均一化といったメリットがある。

これらのセルソースの細胞加工を担う製造施設は渋谷駅から徒歩10分ほどの雑居ビルの中にある。都市部にあるのは意外だが、輸送にかかるコストを抑えるのが狙いです。再生医療では細胞を冷凍しながら特殊な方法で輸送する必要があり、コストがかさみやすい。セルソースも例外ではなく、都内に施設を置いて対策していても荷造運賃だけで年間5000万から6000万円ほどの費用が発生している。

社員数も90人と、この規模の企業としては比較的少ない水準だ。固定費を始めとしたコスト削減を徹底的に実施することで高収益体質を維持しているという。同社は経営方針として社員にもコスト意識を持たせる工夫をしており、事業などの改善提案をする場合に「それは真に必要か」という視点を持つよう促すとともに、生産性を改善させるための取り組みを推奨している。

決算発表後の株価は下落したものの、高いPERを維持

セルソースが決算を発表した翌日、株価は16%下落し、その後株価は低調に推移している。(2023/01/04時点)足元の決算は好調なものの、合わせて公表した今後の業績予想が市場の期待に届かなかったことためだ。

2023年10月期の単独業績予想は売上高が前期比22%増の51億円、営業利益は3%増の16億円にとどまる見通し。増益幅が急速に縮まることが悪材料視された。

2023年10月期のEPS(一株あたり当期純利益)をベースにPERを計算すると、決算発表直前の約93倍から約78倍まで低下したが、日本の上場企業の平均は15倍前後とされているため、低下してもなお多くの期待を集めていることが伺える。

最後に

バイオベンチャーはコストが膨らみやすいビジネスモデルで、多くの企業が慢性的な赤字となっている。患者数などから将来必要になる生産能力を逆算し、設備投資をするためだ。

しかし、セルソースは小さく始めて売上を立てるために必要最小限のコストとなるよう投資。ビジネス需要を確認し、徐々に規模を大きくするといった戦略を取ったことで高収益企業に成長した。

こうした経営手法はリーンスタートアップと呼ばれている。最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間でつくり、顧客の反応を的確に取得して、サービスをブラッシュアップさせるという方法のことだ。ITスタートアップ業界ではよく知られた手法だが、大規模な設備が必要になるバイオベンチャーではこうした発想で経営している企業はこれまで多くなかった。こうした効率よく利益を上げる企業の決算を分析することで、新たな学びが見えて来るはずだ。

 

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