2023.03.05
現在の医療業界には一般医薬品を含めた情報管理が不十分という課題がある。その課題を解決し、今後の方針を決定するために、令和4年10月より電子版お薬手帳のモデル事業が開始された。また、令和5年1月からは電子処方箋の運用も開始されており、医薬品に関する情報の電子化が急速に進められている。本記事では、電子版お薬手帳のモデル事業を実施した背景やその後の展望について解説する。
目次
電子版お薬手帳のモデル事業とは
「電子版お薬手帳のモデル事業」は、厚労省によって令和4年10月から12月に実施された事業である。全国の薬局、利用者に一般用医薬品等の服用状況を記録したり、薬剤師による服薬指導を受けてもらったりすることで、課題の抽出や活用方法の実証を行うというものである。 結果については令和4年度末に公表される予定だ。
事業に協力した薬局グループとアプリ事業者は以下を参照していただきたい。
【薬局グループ】
- あたご調剤薬局
- 上田薬剤師会
- ウエルシア薬局株式会社
- 株式会社エアリーファーマシー
- ゴダイ株式会社
- 滋賀県薬剤師会 会営薬局
- 株式会社スギ薬局
- みのり薬局
【電子版お薬手帳アプリ事業者】
- 株式会社くすりの窓口
- harmo株式会社
- 株式会社ファルモ
- メドピア株式会社
電子版お薬手帳のモデル事業を実施する背景と狙い
ここでは、電子版お薬手帳のモデル事業実施の狙いについて詳しく解説する。
一般医薬品の情報活用
電子版お薬手帳のモデル事業による1つ目の狙いは、一般医薬品の情報活用だ。現在、医薬品を電子情報として閲覧、参照できるように以下のような仕組みの構築が進められている。
- マイナポータルの活用による薬剤情報(レセプト情報)を確認するシステム
- 電子処方箋の運用
しかし、これらの情報には市販で購入できる一般医薬品の情報が含まれていない。一般医薬品を服用した情報が記載されていないと、重複投薬をしてしまったり、予期せぬ副作用が現れたりするリスクもあるだろう。
このようなリスクを避けるためにも、医療用医薬品に加えて一般用医薬品の情報も閲覧できるようになることが望まれている。そのため、電子版お薬手帳のモデル事業を実施し、課題点の抽出や、一般医薬品の情報をうまく活用するための方法を検討することとなった。
電子版お薬手帳アプリの機能の標準化
2つ目の狙いは、電子版お薬手帳アプリに搭載されている機能の標準化だ。現在、多くの事業者がお薬手帳のアプリを開発しており、それぞれ独自の付加的機能を提供している。その状況の中で、厚生労働省はお薬手帳アプリで最低限搭載しておきたい機能、推奨する機能を標準化しようと考えている。電子版お薬手帳のモデル事業の目的は、お薬手帳アプリの統一化を図るためでもあるのだ。
現在のお薬手帳アプリの状況
事業の実施にあたって、電子版お薬手帳アプリについても理解しておく必要がある。ここでは現在のお薬手帳アプリの状況について解説する。
多くのお薬手帳アプリが乱立している
現在では多くの専門事業者やドラッグストアなどの参入によって、さまざまなお薬手帳アプリが提供されている。その数は日本薬剤師会の登録商標である「e薬Link」に対応しているものでも、50種類以上にのぼる。
お薬手帳アプリでは通常のお薬手帳と同じように、処方薬の記録が可能だ。その他にも、服薬忘れ防止のリマインダーや処方薬の情報を検索できる機能も搭載されているケースが多い。このように、お薬手帳アプリは紙のお薬手帳と比較して多機能である点と、持ち忘れの心配がない点が大きな特徴といえるだろう。
お薬手帳アプリのガイドライン作成
多くのお薬手帳アプリが提供されている状況を踏まえ、厚生労働省は平成27年から運用上のガイドラインを作成し、令和3年にも一部改正をしている。これはお薬手帳アプリの運用方法がそれぞれ異なってしまうと、利用者を混乱させる恐れがあるからだ。
運用上の規定を設け、利用者が安心してお薬手帳アプリを使用できる環境を整える必要がある。また、電子版お薬手帳のモデル事業の実施結果によっては、今後もさらなる調整がされると考えられる。
運営事業者に関するものだけでなく、お薬手帳サービス全般の留意点も記載しているので、詳しくは厚生労働省のサイトを参照してほしい。
電子版お薬手帳のモデル事業の実施による今後の影響
電子版お薬手帳のモデル事業の実施によって、医療面にさまざまな影響が現れると予想される。ここでは「医療の新規サービス開発」と「ヘルスケアデータ」に関する影響に注目して解説する。
新規サービス開発の推進
電子版お薬手帳のモデル事業の実施によって、新規サービスの開発が促進されると考えられる。たとえば、服薬データが医療機関、薬局へ共有されることで重複投薬の防止や、適切な内服薬の提供が可能になるサービスが整っていくだろう。新たなサービスが開発されれば、利用者がシームレスに医療の恩恵を受けられるだけでなく、医療機関、薬局のサービスの質向上も期待できる。
また、既存サービスの利便性も高くなると考えられる。現在、服薬管理だけでなくオンライン診療、オンライン服薬指導を提供しているお薬手帳アプリもある。このようなサービスが普及すれば、オンライン診療と服薬指導を行った後にお薬手帳アプリに記録、という流れが当たり前になるのではないだろうか。
ヘルスケアデータ管理の推進
ヘルスケアデータの管理についても、電子版お薬手帳のモデル事業によって変化が起こると考えられる。医療機関の診療を記録したり、健康状態を管理したりする「生涯型電子カルテ」ともいわれるPHR(Personal Health Record)をご存じだろうか。
このPHR機能を持ったアプリとの連携によって、服薬情報だけでなく、PHRアプリに保管されているさまざまなデータとの照らし合わせが可能になり、より質の高い服薬指導、健康管理のサポートが実現できるだろう。
まとめ
電子版お薬手帳のモデル事業は、医療用医薬品に加えて一般医薬品の情報をうまく活用するための取り組みである。医療サービスやヘルスケアデータなどの発展も期待できるため、今後の結果報告が待たれるところである。
参考
(1)電子版お薬手帳のモデル事業を開始しました – 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28521.html
(2)e薬Linkに対応している電子お薬手帳(一覧) – 日本薬剤師会
https://www.nichiyaku.or.jp/e_kusulink/list.html
(3)お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について – 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000847777.pdf
(4)電子版お薬手帳適切な推進に向けた調査検討 調査検討会 報告書 – 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000938379.pdf