2023.02.20
2022年12月16日に行われた医療介護総合確保促進会議において、厚労省は「ポスト2025年の医療・介護提供体制の姿(素案)」を示した。これまで、ヘルスケア業界は、団塊の世代が全て75歳以上となる2025年を目標として、医療介護の体制整備を進めてきた。目標としていた2025年が目前となるなかで、その先の新たなヘルスケア業界の在り方が検討され始めた。今回は、国が示す「ポスト2025」の背景を確認しつつ、重要なキーワードについて解説する。
目次
局面は「高齢者の急増」から「現役世代の急減」に変化
ポスト2025を考えるうえで、背景となるのは、人口構造の変化だ。これまでのヘルスケア業界は、“団塊の世代が全て75歳以上となる2025年に向けて、高齢者の急増にどのように対応するか”が最大のテーマだった。
65歳以上の高齢者は2000年には2,204万人だったが、2025年には3,677万人となる見込みであり、2000年に比べて66%も増えることになる。そのため、高齢者急増への対策が必要とされてきた。
しかし、ポスト2025では高齢者の急増は大きなテーマにはならない。実は2025年以降、65歳以上の高齢者はさほど増えない。2040年の高齢者数は3,921万人となる見込みだが、2025年からの増加率は6.6%に留まる。
むしろ、深刻さを増すのは、現役世代の減少だ。15~64歳の人口は2025年には7,170万人の見込みだが、2040年には5,978万人となる見込みであり、16.6%も減少することになる。
現役世代の減少に伴って問題となるのは、“働く人の減少”と“税収の減少”だ。2040年には高齢化率が35%を超えると言われる。多くの高齢者を、少ない現役世代で支えていかなければならない。ポスト2025では“生産性の向上”と“効率化”が必須となる。
参考:12月20日 社会保障審議会(介護保険部会)参考資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29930.html
医療と介護の複合ニーズが増加
人口構造の変化について、もう1つ注目すべきことがある。それは“高齢者の高年齢化”だ。2025年以降、65~74歳の若い高齢者は増えないものの、75歳以上の高齢者は増加していく。日本人の長寿命化に加えて、人口のボリュームゾーンである団塊の世代が75歳以上になるためだ。
75歳以上の高齢者になると、介護を必要とする可能性が高まる。年齢階級別の要介護認定率は、65歳以上全体では18.6%であるが、75歳以上全体では32%、85歳以上全体では58%まで増大する。また、認知症の発症確率が高まったり、パートナーとの死別等により高齢単身者になる可能性が高まったりもする。
ポスト2025では、“高齢者の高年齢化”が進み、医療だけでなく、介護サービスも複合的に必要とする人が増えていくと考えられる。そのため、“医療介護の連携”や“医療と介護の複合的なサービス提供“が重要となる。
参考:12月20日 社会保障審議会(介護保険部会)参考資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29930.html
ポスト2025のキーワード
厚労省が示した「ポスト2025年の医療・介護提供体制の姿(素案)」において重要なキーワードを3つ取り上げる。
「治し、支える医療」
1つ目のキーワードは「治し、支える医療*」だ。このキーワードは、厚労省が示した「ポスト2025年の医療・介護提供体制の姿(素案)」の中で10箇所に使われており、繰り返し使われていることからも重要性の高さを感じることができる。
*入院治療で「治す」ことに特化するのではなく、在宅医療や外来医療などでその後の生活面を「支える」ことを指す。
これまで医療提供体制について検討する時には、「治す」ことに特化した議論を行ってきた。しかし、今後の介護需要の増大、認知症高齢者・単身高齢者の増加を見据えると、治すだけでなく、地域で支えていく体制が必要となる。
現在、医療提供体制の在り方を示すものとして「地域医療構想」があるが、地域医療構想では、主に2025年に必要となる4つの医療機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)について書かれており、やはり「治す」こと(入院医療に関すること)に特化している。
ポスト2025においては、地域医療構想もアップデートする必要がある。今後の地域医療構想では、入院医療についてだけでなく、“在宅医療”や“外来医療”も含めて、どのように“支える医療”を実現させるのかを示していくことになる。
かかりつけ医
2つ目のキーワードは「かかりつけ医」だ。
前述の通り、“高齢者の高齢化”が進むことで、医療介護の複合的なニーズが増加し、医療・介護連携を強化することが必要となる。その際にキーマンになるのが「かかりつけ医」だ。
現在、多くの診療所では「在宅医療の提供」や「介護サービス等と連携」が出来ていない。患者は診療所に来るものであったし、医師の役目は「治す」ことだったためだ。
しかし、ポスト2025では、診療所に来れない患者や、医療だけではなく介護サービスも必要とする患者が増加する。それらの患者を「支える」ためには、診療所が「在宅医療の提供」や「介護サービス等と連携」といった役割を担う必要があり、このような役割を担う存在として「かかりつけ医」が期待されている。1人のかかりつけ医だけで全ての機能を担うことは難しいため、地域内のかかりつけ医で連携し、役割分担をしたうえで、地域全体として必要な機能を満たしていくこととなる。
参考:12月20日 社会保障審議会(介護保険部会)参考資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29930.html
医療介護DX
最後のキーワードは「医療介護DX」だ。
ポスト2025の課題である“働く人の減少”と“税収の減少”に対応するためには、“生産性の向上”と“効率化によるムダの削減”が必要となる。
ICT・介護ロボット等の活用、手続のデジタル化等が進むことで、医療介護現場の生産性向上が期待される。また、保険証の代わりにマイナンバーカードで受診する“オンライン資格確認等システム”を利用することで、目視によるチェックや手入力によるミスがなくなり、医療機関の事務負担も、レセプトの審査を行う支払基金や国保連の負担も削減される。
さらに、オンライン資格確認等システムによって集められたデータは、今後の医療介護DXの基盤となる。このネットワークに加えて、電子カルテやLIFE等の医療介護全般にわたる情報を集約し、容易に共有・交換できるようにする「全国医療情報プラットフォーム」の構想も進んでいる。
「全国医療情報プラットフォーム」に集められた情報は一定のルールの下で、民間の PHR (パーソナル・ヘルス・レコード) 事業者も活用できることとなる。民間の創意工夫により、予防・健康づくりに資する様々なサービスの創出も期待される。
参考:12月20日 社会保障審議会(介護保険部会)参考資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29930.html
まとめ
このように「ポスト2025」では、人口動態の変化に向き合った新しい医療介護の在り方を構築することが求められている。そして、2024年には「ポスト2025」の姿を基にして、医療計画・介護保険事業計画の見直しや、診療報酬・介護報酬の同時改定が行われる。私たち一人ひとりも、「ポスト2025」に向けた変化をしっかりと受け止め、自身の事業の在り方を考えていくことが必要となる。
参考
(1)第18回医療介護総合確保促進会議 資料3 ポスト2025年の医療・介護提供体制の姿(素案)
https://www.mhlw.go.jp/stf/index_00032.html
(2)12月20日 社会保障審議会(介護保険部会)参考資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29930.html